春の養生法 2020年2月号
~春の過ごし方~
春、風の強い季節です。今もむかしも人は自然の影響を受けています。春の風にも大いに影響されます。今回のコラムは春の過ごし方についてお話します。春の強い風は、遠くより花粉をはこんできたり、人によってはめまいの原因となり、不愉快な方も多いかと思います。じつを申しますとわたしも春は苦手です。日差しが強いのに風が冷たかったり、お天気がころころ変わったり、なにを着ればよいのかさっぱりわからないことが多いからです。小コラムにより、みなさまがすこしでも快適な春をおすごしいただければ幸いです。
漢方では、春は陽気が芽生えはじめる「発生の季節」といわれます。自然界では草木の芽が発生し、生きものはからだを動かしたり、からだを温める力がわいてきます。人の内臓では、肝のはたらきが活発になる季節です。肝はこころとからだの動きをスムーズにするはたらきをそなえます。春に体調をそこなわないためには、肝をたいせつにすること、さらにのびのびと発生する陽気のはたらきをさまたげないような生活をおくることが必要です。
朝、散歩していると日にあたったアスファルトから水蒸気が立ち上っています。太陽のエネルギーが地表にふりそそぎ、その水分を上に持ち上げているのです。春のぼやっとかすんだ空の色はこの地表から立ちのぼる水蒸気のためです。人も自然の一部です。これと同じようなことがからだの中でもおこります。
健康なからだのばあい、頭に冷たい陰気が昇り、足に温かい陽気が下る「頭寒足熱」の状態となります。ところが春は陰陽の交流がスムーズにおこなわれません。春のぼやっとかすんだ空の色のごとく、からだは気の流れや水分の代謝がとどこおりやすい状態となります。このようなときにからだに疲労がたまったり、急な気象の変化やストレスにあうと、本来であれば下るはずの陽気が昇り、昇るはずの陰気が下ります。頭寒足熱の反対です。これにより冷えのぼせというような症状があらわれます。持病もあらわれやすく、からだの調子も不安定なものになります。
ではそれをふせぐ春の生活スタイルについて。春はすこしくらい夜更かしをしてもかまいません。しかし朝早く起きましょう。そしてゆったりと近所を散歩します。中国の古い文献には「髪の結びをほぐして体をのびのびと動かす」と書いてあります。ゆったりとした気持ち、ゆったりとした服装で、ゆっくりと季節のうつろいをかんじながらからだを動かします。散歩や太極拳、ヨガは理想的なからだの動かし方です。
朝早く起きてゆっくりからだを動かすと何が起こるというのでしょうか。じつは、からだを温める気力(エネルギー)が生まれるのです。人のからだのもっともたいせつなものです。
漢方ではからだの気の流れをのびのびとさせるはたらきを肝がコントロールしていると考えます。春は肝を大切にする。これが春のすごしかたのポイントです。肝がよろこぶのは、のびのび、リラックス、束縛されないこと。できるだけ“わがまま”をめざします。こどものころに戻ったように。また自分の好きな香りのものを身につけたり、飲食することも肝はよろこびます。
みなさまはマッサージの治療を受けたことがおありですか。マッサージはスムーズな気の流れをうながします。筋肉がほぐれ、背筋がのびのびとして、背が高くなったような気がします。春におすすめの養生法のひとつです。
そんな時間はない、というお忙しい方、からだをゆっくりのばしましょう。ストレッチです。とくにからだの側面をゆっくりのばします。からだの側面は、肝のはたらきを良くするところです。右の体側をのばすときには、左手で右手の手首をつかみ上に向かいゆっくりのばしていきます。左の側面は、右手で左の手首をつかみ、同様におこないます。一番のびたところでゆったりと呼吸をつづけながら30秒~40秒くらいその姿勢をたもちましょう。左右3回ずつおこなえば効果は十分です。
香りのある食べものは気の流れをスムーズにして肝のはたらきを助けます。春におすすめできます。みなさまにとって好みの香りの野菜やくだものをいただきましょう。しょうが、にんにく、セロリ、にら、パセリ、香菜、しそ、レモン、はっさくなどのなかから。午前中、少量いただくのがポイントです。コーヒー、紅茶、菊茶などもお好みでどうぞ。
ツボは陽陵泉(ようりょうせん)、太衝(たいしょう)がおすすめです。いずれも肝のはたらきを調えるための重要なところです。陽陵泉は、膝の下のもっとも外側に出っ張った骨があるのでそのすぐ下のくぼみに取ります。太衝は足の甲側、足の親指と人さし指の骨がつながるところに取ります。簡易灸、あるいはゆっくりと心地よい程度のつよさで指圧します。
春に快適にすごすための漢方薬は豊富にあります。加味逍遙散(かみしょうようさん)、柴胡疏肝散(さいこそかんさん)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、香蘇散(こうそさん)などは比較的によく用いられます。それぞれの方の体質にあったものがえらばれます。くわしくは漢方の専門家にご相談ください。
さあ、春本番です。だんだん温かくなりますが、気候は安定しません。この季節は朝早く起きてゆっくりからだを動かしましょう。マッサージやストレッチをして気持ちもからだものびのびさせます。また、好みの香りの食品、ツボ治療や漢方薬のちからで快適におすごしになってください。