お腹の張り・下痢
20代 男性
やや痩せている筋肉質タイプ。3~4か月前から、下痢、おならが多くなり、それがつらくて2か月前に内科を受診した。過敏性腸症候群と診断され、整腸剤とガスを止める薬を処方されたが、1か月服用しても病状に変化がない。そこで鍼灸の治療を受診することにした。お腹の張り、おなら・げっぷが多い、1日に2~3回の下痢といった主な症状に、胃痛や、食欲不振背中のこりをともなう。5年前に痔瘻を経験したことがある。
触診するとお腹や背中の筋肉が張っている。唇の色が紫がかっていて、あまりいい色を呈していない。舌の苔も厚く、胃腸のはたらきが悪いことを示している。この症状に対する鍼灸治療は初めてということだが、治療を始めてから3回目までに下痢の回数が減り、1日おき1日に1回となる。またおならに悪臭をともなっていたのも徐々に改善する。治療は1週間に1度としたが、治療開始後ひと月半で症状の7割ほど改善した気がする、とのこと。下痢は1週間に1度程度まで減り、食欲もふえてきた。舌の苔も薄くなっており、顔や唇の血色も以前よりつやがでてきた。2か月目には8割が改善している。この状態がしばらく続けば、あと数回で治療を終える予定でいる。
肩の痛み
80代 女性
4月中旬に肺炎予防の注射を左肩に打った。そのときに、強く痛みを感じたが、当日は生活に支障はなかった。しかしその翌日から左の腕が上に上がらなくなる。左手をつくだけで痛みが走り、朝、起き上がるまでに30分をついやす。腕は上に上がらず、後ろに回すこともできない。日常の動作が不便で、着替えすることもままならない。注射を打った日から数えて一週間目に来院された。
左腕の受傷。左の肩周辺の経気の疏通を目標に治療を行う。仰向け、座位、うつぶせの姿勢で、ポイントとなるところへ、針と灸の施術をする。3回目の治療までは不変。それ以降に徐々に回復する。3週間の間に5回目の治療を行い9割の回復をみせる。日常での動作に違和感がなくなり、ゆっくりでも腕を上げることができたり、回すことができるようになったところで治療を終えた。
めまい
40代 女性
3月下旬。来院の2~3日前から、ぐるぐる回るめまいがする。朝、起床時に頭を持ち上げるときに著しい。寝返りでも悪化する。まだ病院には行っておらず、詳しい検査は受けていない。数回の鍼灸治療で症状が改善しなければ、受診するつもり、とのこと。普段から頭痛を起こしやすく、頸も痛くなりやすい。とくに頸は痛くなにか張り付いている感じがしている。
春季には、自然界と同調するように肝気が旺盛となる。この患者さんの場合は、肝気が素体の痰を上衝させて起こった症状ととらえ、肝気を鎮めるような鍼灸の治療を行うことにした。3回の治療を一日置きに行うと、頸の痛みは半減した。めまいは同様にある。治療を始めて、10日すると、朝、起き上がるときに、めまいを意識しないようになる。日中にはめまいが残る。頸の症状は、7割改善している。その後の3週間の治療で、症状がピタリと止んだ。その後2週間を経過して、症状が現れないことを確認して、治療を終えた。
夜泣き
1歳 男児
夜中に何度も起きて泣き叫ぶ。ひどい夜は一時間おきに朝までこの状態が続く。そのときの泣き方が尋常ではなく、家族がみな起きてしまうほど。泣く、というよりも何かにおびえて泣きわめく、といった感じ。このままではそれぞれの家族の生活にもさし障りがある。男児の母が藁にもすがる気持ちで来院された。男児は保育園に通っており、食欲もある。ただし、風邪をひきやすく、来院日にも咳と鼻水を呈していた。ほかに目立った症状はない。
小児鍼は痛みをともなわない。軽度の刺激のあるローラーでからだの一定の方向に刺激を加えて、小児の不安定な“気”を安定させるために有効な治療法である。治療は5分ほどで終わり、まったく痛みをともなわない。その後、背中のツボにお灸を一壮すえて終えた。また、ご自宅でもできるようにローラーとお灸する位置を指導して、その日はお帰りいただいた。
ひと月後に来院されたので様子をうかがうと、治療した日から劇的に良くなったとのこと。授乳のために夜中に起きるが、泣きわめくことはまったくなくなった。ときどき小さな声で泣く程度ですぐにまた眠りにつくとのこと。また、しょっちゅう風邪をひいていたのだが、それもなくなった。東洋医学の治療効果に家族のみなが驚いているとのこと。このように症状の軽重にもよるが、小児鍼の効果は早く、それでいて持続的である。
脊柱管狭窄症・歩行困難
70代 女性
歩くときに足が痛く、200mほど歩くと休まずにはいられない。痛む場所は右足で、とくに膝から下の側面やふくらはぎに症状が強い。座っている姿勢から立ち上がるときにも痛みを発する。医師の診断を受けると、MRI検査では脊柱管の狭窄がみられたが、すぐに外科的な処置を要するものではないとのこと。
このところ足腰が衰えたような気がしており、数か月の間に三回転んだ、とおっしゃる。
また、この症状が現れるまでは、腰が痛い、と思ったことはなかったが、最近は重く痛い気がする。
血圧が高く、降圧剤、コレステロール降下剤、睡眠導入剤を服用している。
週に一度の治療を始めたところ、徐々に痛みを発するまでの歩行の距離が伸びていく。
一か月ほどすると、痛みを感じることなく、15分ほどで約一キロメートルは歩けるようになる。
痛みの症状は、一進一退をくりかえすが、治療を始めて3か月になると、突如痛みがなくなる。
ご本人は半信半疑で、また痛くなると困るので、さらに2週間の治療を継続して行ったが、症状が現れないので、治療を終えることにした。
このように脊柱管の狭窄があっても、痛みが改善したり、消失する場合はある。
後頭部の重み
30代 女性
3週間前に階段を下りているときにすべり、右腰を強打した。その翌日から、右の半身にしびれが生じた。症状は手足におよび、2週間続いた。そのしびれが治ってからは、後頭部に重みが出てきた。重みは1週間続いている。押さえつけられるようで、ズーンとしている。整形外科で検査を受けたが、目立った所見はみられなかった。そのつらさに耐えられず、来院された。
後頭部のとくに右側を中心にこりができていた。階段をすべったときに後頭部に負担がかかり生じたものと判断した。なお、この方はふだんから肩こり、目の疲れがあり、それらの症状は慢性化しているとおっしゃっている。
治療は、手足の要穴、後頭部、頸部、肩甲骨の周りの反応のあるところ、腰部を中心に行った。一回目の治療の後、2~3日は変化がなかったが、その後徐々に回復して、症状の4割が改善した。一週間後に2回目の治療を行い、同様に治療すると、その翌日、かなり後頭部が重くなり、一日中つらかった、とおっしゃる。しかし、その翌日からうそのように軽くなり、9割の症状が改善した。3回目の治療をその一週間後に行ったところ、初診時にできていた後頭部のこりはほぼ消失していた。この治療の後、もし悪化するようなことがあればまた来ていただくこととして、治療を終えた。その後、症状の悪化はない、との連絡をいただいている。
過敏性腸症候群(膨満感)
症例) 40代 女性
5年前に社内で昇進した。それをストレスに感じており、日ごろからプレッシャーを受けている精神状態。半年前に部署が変わったのがきっかけとなり膨満感を強く感じるようになった。膨満感が著しくなると痛みに変わる。通常、便は下痢っぽい。内科で内視鏡検査を受診したが、とくに問題となるようなところは見られず、過敏性腸症候群と診断された。毎晩缶ビールを1本、晩酌している。週末は付き合いの席が多い。尿が一日4回くらいと少ない。足はむくみやすい。舌には白苔がある。
からだの気が停滞していることでお腹が張って膨満感を感じているのだが、尿が少なくて足がむくみやすいなどの症状があり、この方に関してはまず水分の停滞を改善する必要性を感じたのでその治療を始めた。胃を温め、尿の排泄を高めるような治療を続けていくと、手足が温まり、尿の出もすっきりとしたものに変わった。治療を一か月半ほど続けてからだの水分の代謝が改善されると、お腹の張りも少しずつ改善されるようになり、それまでは午後になるとお腹の張りがつらかったけれど、それが改善された。また以前に比べて下痢することが少なくなった。引き続き胃を温めるのと同時に、弱った胃腸のはたらきを補うような治療を行っていると、いつもはつらい会議のときも膨満感をほとんど感じることがなくなり、症状のおよそ8割が改善された。週末の付き合いの席の後は、どうしても症状が出てしまう。しかし、それを除けば症状は安定しており、通常の勤務に際してはつらいと感じることはほぼなくなった。治療を始めて2か月半、10回の治療を経て略治とした。
肋骨の痛み
背中の肋骨の痛み
症例) 30代 女性
5年前に胸の前の骨と骨の間が痛くなった。そのときの痛みは疲労時にとくに悪化していたが、病院で診察を受けることなく、1~2年で治まった。今回の痛みは、背中の肋骨の間とからだの側面の骨際に発生した。なかなか治まらずに、余計に悪化してきており、がまんできずに来院された。寒い時期に症状が悪化して、お風呂に入ったり温めると楽になるとのこと。毎年、冬になるとしもやけができる体質とおっしゃる。
肋間の神経痛と判断してお灸を中心とした治療を行った。寒い時期に症状が悪化して、お風呂に入ったり温めると楽になったり、毎年、冬になるとしもやけができる体質から、血の冷えがあり、痛みは陰寒の邪が停滞したゆえと判断した。舌を見せていただくと淡紅色で歯形がある。局所にて痛みの発生するところ、および関元、腎兪、命門、腰陽関などにお灸をすることで、陰寒の邪を追い払い、元陽を鼓舞して正気を取り戻すことを目標にした治療を行った。初診の後、痛む範囲がやや狭くなった。ただし、痛みはまだある。2診の後、いったん痛む部位がよりいっそう痛くなったが、その後急速に回復してきた。日によっては痛みを感じない日もある。3診後、さらに範囲が狭まり、痛みが半分以下に軽減した。4診後(治療をはじめて3週間後)には、痛みは感じるものの、すでに8割以上は回復している。そこでしばらく様子を見ることにしたが、治療を受けずとも状態は安定して良いとのこと。略治とした。
過敏性腸症候群(お腹の張り)
症例) 30代 男性
仕事をし始めた20代の前半からお腹が張ってつらい。この症状が出るようになってすでに10年は経っている。病院で腸の内視鏡の検査を受けたが器質的な問題はみつからなかった。内科医にガスコンを処方されたが、服用すると余計に悪化するようで現在は止めている。一人でいるときは平気だが、周りに人が大勢いて自分のお腹から音が鳴ると思うと冷や汗が出るほどつらい。食欲はあるが、朝は軽めにして、昼食は会社でお腹が張ると困るので、ほとんど取らず、その分夜に多めに食べている。便は下痢のことが多く、一日に一回出る。日曜日の夜になるとお腹が不安で居ても立っても居られない状態になる。そのほかの症状は、中学生の頃から悩まされる片頭痛で、目をよく使うためか、夕方から頭痛が始まることがある。
この方の舌の苔は分厚くなっていた。それが示すところは消化不良である。朝少なく、夜多めの食生活もそれを助けていると推測したので、まずはその問題とこちらの提案する食生活についてお話ししてご理解を得た。一週間に一度の治療と自宅での灸、漢方薬にも興味があり、ぜひ服用してみたいということなので、鍼灸の治療と併用していただくことにした。初診を終えて、2診目までに食欲が出てきた。3診のときには、舌の苔もだいぶ薄くなっており、お腹の張りも軽減してきた。治療を始めてからひと月後には、症状が4割改善しており、下痢することもなくなり、普通便になった。ひと月半経つころには、症状の7割が改善しており、その後の一か月間も同様に調子のよい状態を保つことができていたので、漢方薬だけ服用していただき、鍼灸の治療は終えることにした。中学生の頃から悩まされる片頭痛も頻度が少なくなり、身体も気持ちも安定してきた。その後、漢方薬をひと月継続していただき、さらに病状が悪化しないことを確認したうえで服用をやめていただいたが、今のところ体の不調は呈していない。
妊娠・出産のための体づくり
症例) 30代後半 女性
結婚して5年。2年前に6週での流産を経験している。年齢的に30代の後半にさしかかってきたこともあり、半年前から婦人科で不妊に関する検査を受けることにした。そこでは夫婦ともに妊娠するにあたり器質的に大きな異常がみられなかったので、今のところタイミング療法を行っている段階。できるだけ自然なかたちでの妊娠を望んでおり、漢方薬も3か月前から服用している。生理痛はほとんどないが、ときどき不正出血することがある。パートナーの精子にも異常はみられない。
時間的に不規則な仕事をされており、身体は疲れ気味。ストレスは常に感じている。そのようにストレスでイライラするときには、甘いもの(好きなチョコレート)に頼ってしまう。年齢的に30代の後半にさしかかってきたこともあり、腎気を調節する治療に加えて、疲労回復、およびストレスで悪化した気の流れを快復することを目標に治療を行った。それとお腹に触れると、下腹部が冷えていたので、その部分をとくにお灸で温めるようにした。生理の前後に鍼灸治療を行うことにしたが、すぐにそれまではあいまいだった高温期と低温期の差がはっきりとしはじめ、不正出血も見られないようになってきた。自宅でもお灸をしていただくことにしたが、徐々に手足の冷えも改善してきた。鍼灸治療を始めてから5か月後に妊娠検査薬と基礎体温表で妊娠を確認することができた。その後も出産まで三陰交のお灸を継続していただき、無事に出産することができた。このようなケースは男女ともに年齢的にも比較的に若く、条件が整っていたからこその結果である。不妊治療はこのようにハッピーエンドのことばかりではない。
不妊治療に関して、鍼灸や漢方薬にできることは、とても狭い範囲に限定されている。たとえば排卵を誘発したり卵管を通すとか人工授精、顕微授精などはまったくもって手がとどかない。不妊専門医の為すべきところにある。ただし、鍼灸や漢方薬には、それらの西洋医学的な治療により、疲弊した心身の回復、基礎となる男女の体力づくり、女性の生理周期の乱れを改善してメリハリのある生理周期に近づけること、ストレスによる気滞の解消などさまざまな貢献ができる。不妊治療の現状をみると、西洋医学的な治療は突き進む感じで、頼りがいはあるが、それだけに心身の消耗もいちじるしい。東洋医学は地味ではあるが縁の下の力持ち的な存在でしっかり消耗された体をサポートできる。