よもぎ 2020年3月号
ふだん見すごしているものの中に、「へ~そうだったんだ」というものが多々あります。道端に雑草みたいにはえているヨモギがお灸のときにつかう“もぐさ”になるというのを知ったときもそんな気持ちでした。今回のコラムでは、そのヨモギの話をいたします。ヨモギはとても強い植物です。アスファルトの裂け目から勢いよくのびています。雑草あつかいされるのも、強い生命力のためです。そのような強いエネルギーをそなえるヨモギはいろいろな用途で用いられています。食べて良し、くすりとしてのんで良し、加工してお灸に使って良しといったすぐれものです。みなさま、ぜひヨモギを身近にお感じになり、さまざまな場面でご利用なさってください。
春が苦手、という方はたくさんいらっしゃいます。春になると植物は土を破り芽をだします。木の芽立ち、とも言われます。からだの動きも自然に合わせてより活発になります。ところが、本来はそのようになるはずのからだですが、いろいろな原因でバランスがくずれていると季節に同調することができません。自然が求めるからだのリズムとのギャップに苦しみます。そこで体調や気分がそこなわれます。自律神経の失調などと言われますが、それほど深刻にお考えにならないでください。誰にとっても春の季節(三寒四温と言われます)と足並みをそろえるのはむずかしいものです。
春に体調をそこないやすい方は、ヨモギをふくむ食べものを召し上がってみてはいかがでしょうか。自然食品屋さんにヨモギをふくんだお餅があります。朝食などに便利なひと品です。もち米は胃腸を整え、元気をつけます。またヨモギは気の巡りをよくして胃腸の余分な水分をのぞき、そのはたらきを回復させます。ヨモギの香りも、鬱々した気を晴らすのを助けます。ヨモギ団子もおすすめです。ただし、こちらはトッピングのあんこの甘さを控えたものをお選びになり、食べすぎにはご注意ください。
生薬としてのヨモギには「艾葉(がいよう)」という名前がついており、漢方薬の成分としてもふくまれています。女性の下腹部の冷えや痛み、生理痛などのときに用いられる漢方薬のだいじな成分です。また月経のときに経血量が多すぎたり、不正性器出血などのときに出血を止めるはたらきもそなえます。このようにヨモギには下腹部を温め、痛みや出血を止めるはたらきがあります。民間療法にヨモギを煎じて下半身を蒸す、ヨモギ蒸しがありますが、まさにこの目的で用いられています。
また冷え症や生理痛、あせもなどを緩和する目的で入浴剤としても用いることができます。乾燥した葉っぱを50~100g布袋に入れて、ナベで少し煮つめてから、沸かしはじめの湯船に入れてください。乾燥した葉っぱは薬店で手に入ります。またケガをしたときにヨモギの葉をよくもんでその汁を傷口につけておくとすぐに治ると言われていますが、これはヨモギの止血のはたらきによります。
ヨモギなしにお灸は語れません。数多ある植物の中でお灸の神様が選んだ葉っぱはヨモギでした。その栄えあるヨモギを原料にして、“もぐさ(艾)”は作られています。もぐさというのは、お灸のときに皮膚の上で燃やす、ヨモギを乾燥させて葉っぱの裏の白い毛を集めたものです。ふわふわして手触りがよくいい匂いがします。簡単に作ることができますが、できあがるまでに時間がかかります。まず初夏にヨモギを採集しておいて、天日で乾燥させます。それを新聞紙にくるんで冬になるまで押し入れに入れておきます。冬の乾燥した日に葉っぱだけを選び、すり鉢ですって、かたいところやごみをふるいにかける作業を何度かくりかえします。そうするときれいなうす黄色のもぐさができあがります。以前に作ったことがあるのですが、かなりほこりが舞うので、マスクを着用しました。またコーヒーミル(コーヒーの豆を砕く機械)を使ってもできます。こちらのほうが便利で、おすすめできます。お灸のときに焼く葉っぱとして、点火しやすく、火力のおだやかなところが他種にくらべて秀でています。お灸は温熱の力でおとろえたからだの元気を回復させます。また神経痛などは冷えがからだの気血の流れを滞らせたときに起こることが多いのですが、それを温めてとかしてスムースにします。そのようにしてさまざまな痛みを取り除くことができます。
はじめに述べましたが、雑草のようなヨモギが、じつは食べて良し、のんで良し、お灸に使って良し、といったスーパー植物だったのです。アスファルトの裂け目から顔をだしているヨモギに少しだけ愛着を感じていただけましたか?ヨモギ団子にヨモギ餅、ときにヨモギの風呂などにつかり、気が向けばお灸(もぐさ)で治療するなどして、ヨモギと親しくお付き合いしてください。
春の養生法 2020年2月号
~春の過ごし方~
春、風の強い季節です。今もむかしも人は自然の影響を受けています。春の風にも大いに影響されます。今回のコラムは春の過ごし方についてお話します。春の強い風は、遠くより花粉をはこんできたり、人によってはめまいの原因となり、不愉快な方も多いかと思います。じつを申しますとわたしも春は苦手です。日差しが強いのに風が冷たかったり、お天気がころころ変わったり、なにを着ればよいのかさっぱりわからないことが多いからです。小コラムにより、みなさまがすこしでも快適な春をおすごしいただければ幸いです。
漢方では、春は陽気が芽生えはじめる「発生の季節」といわれます。自然界では草木の芽が発生し、生きものはからだを動かしたり、からだを温める力がわいてきます。人の内臓では、肝のはたらきが活発になる季節です。肝はこころとからだの動きをスムーズにするはたらきをそなえます。春に体調をそこなわないためには、肝をたいせつにすること、さらにのびのびと発生する陽気のはたらきをさまたげないような生活をおくることが必要です。
朝、散歩していると日にあたったアスファルトから水蒸気が立ち上っています。太陽のエネルギーが地表にふりそそぎ、その水分を上に持ち上げているのです。春のぼやっとかすんだ空の色はこの地表から立ちのぼる水蒸気のためです。人も自然の一部です。これと同じようなことがからだの中でもおこります。
健康なからだのばあい、頭に冷たい陰気が昇り、足に温かい陽気が下る「頭寒足熱」の状態となります。ところが春は陰陽の交流がスムーズにおこなわれません。春のぼやっとかすんだ空の色のごとく、からだは気の流れや水分の代謝がとどこおりやすい状態となります。このようなときにからだに疲労がたまったり、急な気象の変化やストレスにあうと、本来であれば下るはずの陽気が昇り、昇るはずの陰気が下ります。頭寒足熱の反対です。これにより冷えのぼせというような症状があらわれます。持病もあらわれやすく、からだの調子も不安定なものになります。
ではそれをふせぐ春の生活スタイルについて。春はすこしくらい夜更かしをしてもかまいません。しかし朝早く起きましょう。そしてゆったりと近所を散歩します。中国の古い文献には「髪の結びをほぐして体をのびのびと動かす」と書いてあります。ゆったりとした気持ち、ゆったりとした服装で、ゆっくりと季節のうつろいをかんじながらからだを動かします。散歩や太極拳、ヨガは理想的なからだの動かし方です。
朝早く起きてゆっくりからだを動かすと何が起こるというのでしょうか。じつは、からだを温める気力(エネルギー)が生まれるのです。人のからだのもっともたいせつなものです。
漢方ではからだの気の流れをのびのびとさせるはたらきを肝がコントロールしていると考えます。春は肝を大切にする。これが春のすごしかたのポイントです。肝がよろこぶのは、のびのび、リラックス、束縛されないこと。できるだけ“わがまま”をめざします。こどものころに戻ったように。また自分の好きな香りのものを身につけたり、飲食することも肝はよろこびます。
みなさまはマッサージの治療を受けたことがおありですか。マッサージはスムーズな気の流れをうながします。筋肉がほぐれ、背筋がのびのびとして、背が高くなったような気がします。春におすすめの養生法のひとつです。
そんな時間はない、というお忙しい方、からだをゆっくりのばしましょう。ストレッチです。とくにからだの側面をゆっくりのばします。からだの側面は、肝のはたらきを良くするところです。右の体側をのばすときには、左手で右手の手首をつかみ上に向かいゆっくりのばしていきます。左の側面は、右手で左の手首をつかみ、同様におこないます。一番のびたところでゆったりと呼吸をつづけながら30秒~40秒くらいその姿勢をたもちましょう。左右3回ずつおこなえば効果は十分です。
香りのある食べものは気の流れをスムーズにして肝のはたらきを助けます。春におすすめできます。みなさまにとって好みの香りの野菜やくだものをいただきましょう。しょうが、にんにく、セロリ、にら、パセリ、香菜、しそ、レモン、はっさくなどのなかから。午前中、少量いただくのがポイントです。コーヒー、紅茶、菊茶などもお好みでどうぞ。
ツボは陽陵泉(ようりょうせん)、太衝(たいしょう)がおすすめです。いずれも肝のはたらきを調えるための重要なところです。陽陵泉は、膝の下のもっとも外側に出っ張った骨があるのでそのすぐ下のくぼみに取ります。太衝は足の甲側、足の親指と人さし指の骨がつながるところに取ります。簡易灸、あるいはゆっくりと心地よい程度のつよさで指圧します。
春に快適にすごすための漢方薬は豊富にあります。加味逍遙散(かみしょうようさん)、柴胡疏肝散(さいこそかんさん)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、香蘇散(こうそさん)などは比較的によく用いられます。それぞれの方の体質にあったものがえらばれます。くわしくは漢方の専門家にご相談ください。
さあ、春本番です。だんだん温かくなりますが、気候は安定しません。この季節は朝早く起きてゆっくりからだを動かしましょう。マッサージやストレッチをして気持ちもからだものびのびさせます。また、好みの香りの食品、ツボ治療や漢方薬のちからで快適におすごしになってください。
わたしたちの特徴 2020年1月号
~わたしたちの特徴~
わたしたち日本で生活する現代人のからだの特徴をかえりみて、わたしたちにふさわしい食生活について考えてみます。このコラムを書くことになったきっかけは『細胞から元気になる食事』(山田豊文著・新潮文庫)を読んだからです。たいへん興味深い本でした。そのなかで日本人のからだの特徴について、大きく三つ述べています。
ひとつは腸が長いこと、もうひとつはインスリンの分泌がゆるやかであること、三つめは胃酸の分泌が少ないことです。腸が長いことはよく知られていることです。しかしほかの二つについてはあまり聞いたことがありません。しかし世にあふれる糖尿病患者、そして胃薬のCMが多いこと(とくに年末年始です)を思うと、なるほどと納得できます。この三つの特徴をふまえながら、わたしたちはそれにあった食生活を築く必要があります。
日本人の腸の長さは平均すると約9m。欧米人より2mも長い特徴があります。この差、おたがいの食生活のちがいから生じたであろうことは容易に想像がつきます。けっして軽んじることのできないちがいです。
かたや動物性のたんぱく質をたくさんとる習慣のある欧米人は、それが腸のなかで腐敗して有毒物質を生じないように、また便として速やかに排泄するために短い腸が必要でした。そのいっぽうで植物性の食品を中心にとってきた日本人は、食物繊維の消化吸収に時間を要するので、腸を長くすることで栄養をとりいれました。からだが進化したのです。ところが、その腸の長い日本人が、欧米人のまねをして、かれらと同じように肉類を食べると、消化にてこずり、排泄するのに時間がかかります。当然ながら便秘がおこり、腐敗した食べものがからだのなかに長くいすわることになります。持って生まれて腸のはたらきの緩慢な女性は、便秘や憩室炎、大腸がんなどにかかりやすくなります。
つぎはインスリンの分泌がゆるやかという特徴についてです。このことから、わたしたちはもともと糖尿病になりやすい体質をそなえている、と考えてください。あきらめが肝心です。持って生まれて(欧米人にくらべて)インスリンを分泌するすい臓のはたらきが弱いのです。
わたしたちの主食である米は、消化に時間のかかるでんぷんを多くふくんでいます。このでんぷんにより、糖の吸収がゆっくりになります。したがって血糖値の上昇もゆるやかで、すい臓から分泌されるインスリンの量も少なくてすみます。身近な食べものがからだをそのように創りあげたのです。ところが、そんなことはおかまいなしに、パン(とくに菓子パン)やめん類といった精白小麦粉にみちあふれた食生活をおくっていると、インスリンを猛烈ないきおいで分泌せざるをえません。やがてすい臓は疲れはて、インスリンの生産が追いつかなくなり、血糖の高い状態が続くようになります。糖尿病の発症です。
三つめの胃酸の分泌が少ない、という特徴について。残念ながら、わたしたちは欧米人にくらべると、消化器のはたらきが弱いタチのようです。欧米人は食事において、動物性のたんぱく質をたくさん消化吸収する必要があるため、それを分解する胃酸の分泌が旺盛です。これは雨の量が少なく寒冷な気候のヨーロッパ大陸において、農作物の生産量もとぼしく、栄養源を動物性食品にたよらざるをえない状況がそうさせたのです。言わばきびしい自然環境がかれらの強靭な消化器を創りあげたのです。しかしながら日本人の胃酸の分泌量は、欧米人の半分ほどです。これでは大人と子供、いやライオンとネコほどの差があります。かれらのように動物性食品に比重をおいた食生活をまねしたら、すぐにからだに異変が生じます。
腸が長くインスリンや胃酸の分泌が少ない特徴をそなえているわたしたち。悲しくなりましたか?いやいや、そうでもありませんよ。「おごれるものは久しからず」。弱さを知る、ということが生きるうえでたいせつなのです。
まず主食とのかかわり方について。みなさまにはお米をしっかり食べていただきたい。もちろん消化に時間のかかるでんぷんを多くふくんでいるからです。このでんぷんにより、糖の吸収がゆっくりになります。血糖値の上昇もゆるやかになり、すい臓は疲れ知らず。分泌されるインスリンの量も少なくてすみます。血糖の急上昇をうながす、精白小麦粉を使ったパンやパスタはたまのお楽しみにしましょう。
お肉などの動物性食品とのかかわり方について。便秘体質の方はなるべくひかえる方向に変化させましょう。年齢を重ねることにより腸のはたらきはゆっくりになります。ご高齢の方も肉から野菜中心の食生活に変えていきましょう。
さらにイモ類、豆類、海藻類などの繊維質を多くふくんだものをとりましょう。日本人は長い腸を創りあげました。食物繊維の消化吸収に都合の良いからだです。いずれもビタミンやミネラルが豊富で、“縁の下の力持ち”のようにからだを根本から支えてくれます。かんたんに言ってしまえばジャガイモとわかめのお味噌汁で、イモ・豆・海藻はとることができます。
なにもむずかしいことはありません。主食をお米に、そして肉から野菜中心に、具だくさんのお味噌汁。これらを感謝して、時間をかけてゆっくり噛みしめていただきましょう。これがもっともふさわしいわたしたちの食生活です。
第54号~梅雨におすすめの食品
梅雨になるとからだが重だるい、神経痛がでやすい、持病が悪化しやすい、という声をよく耳にします。じとじとして、爽やかな季節ではありません。
今回のコラムでは、梅雨を少しでも快適にすごして頂きたく、おすすめの食品についてお話しいたします。
「薬補(やくほ)は食補(しょくほ)にしかず」とは、健康のためには薬よりも食べものが大事、という意味です。『養生訓』の作者、貝原益軒は日々の食生活の大切さをこの言葉にこめました。梅雨になると、自然に同調するように、からだの水分代謝が悪くなります。それが様々なからだの不調を呼び起こす原因となります。みなさまも暮らしの中に湿気を取り除く食品をぜひ取り入れてみてください。
はと麦茶
はと麦茶はからだの余分な湿気を尿として出します。梅雨にもってこいの飲みものです。ふぅふぅと冷ましながら飲むくらい熱い温度が理想です。普段お茶を飲むときといっしょです。どんなに暑い気候でも冷たい飲み物をゴクゴクと大量に胃に流し込むのはよくありません。胃腸が水びたしになってしまいますから。胃酸も薄くなるので、食べものを消化するはたらきも落ちます。もちろん食欲もなくなります。冷たい飲み物のガブ飲みは控えましょう。
さて、はと麦は、その皮をむけば、湿気取りの漢方薬にふくまれる薬物、薏苡仁(よくいにん)です。イボ取り名人として活躍します。この薬物は、いろいろな漢方薬の中にふくまれていて、からだの中の余分な水分を取り去るはたらきがあります。ほとんど、はと麦=薏苡仁と考えていただいてよく、両者は似たもの同士です。しかし、はと麦の方がよりいっそう安価で、しかも同じようなはたらき、とくればどちらが便利かは言わずもがなですよね。できれば自然食品屋さんの良質なものをお求めください。味がちがいます。
はと麦茶の作り方は麦茶をつくるのと同じ要領です。沸騰させた1~2リットルのお湯に、はと麦を適量入れて、少し火を弱めて、5~10分煮出すだけです。最近は美肌効果もあるようなことがいわれ始めていますが、お肌の不要な水分を取り除くのですから、美肌効果はあって当然です。女性にはたいへんうれしい飲み物ですね。とくに足がむくみやすかったり、尿が出づらいなど、梅雨時や天候の悪化にともないからだの不調が現れやすい方におすすめです。
梅酢
梅酢は梅干しをつくるときにできる酸っぱい汁です。自家製の梅干しをつくられるのであればそのときにできますし、自然食品屋さんにも売っています。梅酢に豊富にふくまれるクエン酸は、疲労回復することでよく知られていますが、そのほかに殺菌するはたらきもあります。梅雨時から夏場にかけて、我が家ではごはんが傷むのを防ぐために使っています。ごはんを炊くとき、お米1カップに対して小さじ1杯くらいを加えます。これくらいの量ですと、酸っぱさを感じないので気になりません。
また梅雨になると湿気が多く、夜は蒸し蒸ししてよく眠れません。したがって本来、睡眠中に回復しているはずの内臓のはたらきもそれほど回復しません。睡眠不足や湿度の高さは容易にからだをだるくさせます。そのようなときには梅酢を盃に1杯お飲みになってみてください。それが酸っぱすぎて飲みづらいという方は、倍くらいに薄めて飲んでください。梅酢の酸っぱさには、からだの栄養吸収を助け、疲労を回復するはたらきがあるので、からだのだるさがとれてきます。梅酢で酢のものを作っても無理なく摂れていいですね。さらに梅酢は整腸のはたらきにも優れているので、夏場の下痢や軟便にも効果があります。梅酢がなければ梅干でもかまいません。いずれにしても、殺菌、疲労回復、整腸にすぐれた梅雨時におすすめのものです。
海草類(こんぶ、わかめ、のり、ひじき)
海草類にはからだの中にこもった熱を尿として排泄してむくみを解消するはたらきがあります。したがって梅雨時に尿が出づらい、むくみやすい方におすすめです。
こんぶはカルシウムや鉄分といったミネラルを豊富にふくみますが、酢といっしょに食べるとそれらの吸収がよくなります。したがって酢こんぶは理にかなっています。わかめときゅうりとしらすの酢のものは水分の代謝をうながし、栄養素も豊富で、そのうえさっぱりする一品です。
またひじきには多くのミネラルがふくまれます。カルシウムの量は、こんぶやわかめの二倍くらいあります。骨密度の低下が気になる方にとっても日ごろから摂ると良い食品です。ひじきを調理する際にも、酢を少し入れると栄養素の吸収が高まります。なお海草類に関しましては、少量では問題はないのですが、摂りすぎるとヨード性甲状腺腫になるおそれがあるので、甲状腺の病気の方はご注意ください。また胃腸が冷えると体調がよくない、冷え症や下痢を起こしやすい方は多量の摂取をお控えください。
第53号~水分のとりかた(2017年5月)
初夏です。すごしやすい季節になりました。少しおもてを散歩するとかるく汗をかき、のどの渇きをおぼえる。そこでお水をぐっとのどに流し込む。「ふーっ」と大きく一息。とても気持ちのいい瞬間です。
いま飲んだ「お水」、わたしたちの体に必要なことは、本能としてわかっています。しかし、その理由となると、すぐには答えることができません。日本に住んでいるわたしたちにとって、身のまわりに水があることはあたりまえのこと。水道のコックさえひねればすぐに飲むことができます。しかし、ところ変わって砂漠地方に住む人たちにとって、水は金や石油よりも貴重なものです。なんの苦労もなく水を飲めたり、お風呂に入るなんてとてもぜいたくな話です。今いちど、たいせつな水に対して真摯に向き合って考えてみましょう。
わたしたちは「呼吸」という体に必要な活動を通じて、酸素を取り入れ、水と二酸化炭素をはき出しています。また運動すればもちろんのこと、じっとしていても汗として、また小便や大便として身体から水分を排出しています。したがって、水分を補わなければ、体がどんどん干からびるのは道理。生きてりゃ、のども渇き、水が飲みたくなる、というのはとても自然なことなのです。
さて、大ざっぱにみて、水、の役割は三つあります。
ひとつは、クールダウン。つまり水は冷やすためのもの。運動したあとや夏の熱気から体をひやします。そうして体温を一定にします。
もうひとつは、排泄。肝臓や肺、胃腸など、内臓がはたらくと体にとって必要のない“ゴミ”のようなものがでます。その“ゴミ”はおもに小便として排泄されます。しかし小便として出そうにも水がないとスムースにいきません。したがって、スムースな排泄のためにも水はたいせつです。
三つ目、体の中の水分の量を一定に保つ。つまり血液や消化液、細胞の中にふくまれる水分の量をだいたいいっしょにするため。たとえば体の水が足りなくなると、血液の中の水の量も少なくなります。すると血液の流れが悪くなったり、ゴミが溜まりやすくなり、血圧が高くなるなど命にかかわる血管系の病気の引き金になります。
これで水の必要性についてはご理解いただけたかと思います。水は体温を一定に保つ、尿や汗の排出をスムースにおこなう、体の中の水分の量を一定に保つために必要なものなのです。
最近は厚生労働省が推進する「健康のため水を飲もう運動」なるものがはやっています。「しっかり水分、元気な毎日」などの標語をつくって、水分補給をすすめています。なるほど、水の必要性は先ほどご説明しました。しかし、このような標語のためか、世の中には水をたくさん飲めば飲むほど健康に近づくと信じているかたも多くみかけます。ここに水のとり過ぎの弊害が生じています。
ぼくの治療院にも、水分をたくさん取っている方々がいます。かえってそのことにより、むくみ、頭痛、冷え、肩こり、尿がすっきり出ない、胃のむかつき、からだが重く朝すぐに起きられない、といった症状を訴えます。もちろん、すぐに水分の取り方をみなおしていただきます。そういう方々の舌には共通性があります。大きくて、ボテッとした感じで、舌の端に歯型がついていることです。また、脈をみると深く沈んでいて、なかなか拍動が伝わってきません。胃の中で水が動くチャポチャポとした音が聞こえたりもします。
体にとって大切な水も量がいきすぎてしまうとかえって“毒”になります。たとえば、子どもたちのように、しょっちゅうからだを動かしていると、汗をかき、たくさんの水分を欲します。その場合には、好きなだけ水を飲んでいただいてけっこうです。体の中を水がじゅうぶんにめぐるからです。またエネルギッシュな若者をみていると、ご飯を食べながら、水をゴクゴクと飲んでいます。そのことで胃酸は水で薄まりますが、じゅうぶんに食べものを消化します。それほど胃酸のはたらきが、すぐれているからです。ところが胃腸の悪い人やあまりからだを動かしてない人は、じゅうぶんに胃酸がはたらきません。食前や食後に水をたくさん飲んでしまうと、すぐに下痢や胃腸障害をおこします。ぼくの治療院では、このようなケースを“水毒(すいどく)”として治療します。このような方に対して、水分の代謝を調える鍼灸治療をおこなうと、胃腸のはたらきがよくなり症状が楽になります。また漢方薬では、茯苓、白朮、沢瀉などで胃腸のはたらきを調え、尿をすっきり排泄させます。
これから本格的に暑い夏が始まります。水分を取ることは決して欠かすことができません。しかしそれほど熱がりでない人やあまりからだを動かさない人が、“健康のために”のどの渇きを感じないまま、たくさんの水分を取ることが体にとってよくないことをおわかりいただけましたか。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」とはまさにこのことです。つけくわえるなら、体に入れる水分はあまり冷たすぎてもいけません。せっかく飲んでもすぐに汗に変わってしまいます。また胃腸を冷やして、消化のはたらきが落ちます。常温のものを、のどの渇きを欲したときに、ゆっくりと口にふくむように飲みくだします。そのようにして体に入れる水分は、尿となり、からだの中の熱を外に出してくれます。夏には、温かい麦茶、スイカ、きゅうり、トマトなどで水分を補給しましょう。
第52号 遺伝子検査(2017年4月)
今月は、どんどん進歩する医学を“ビジネス”に変えた遺伝子検査について考えてみます。
カエルの子はカエル、とはよく言ったもの。ヒトの子はヒトになり、父親と母親に似ます。これを遺伝といいます。そしてそれを支えるのが、遺伝子(DNA)です。
わたしたちのからだは、約60兆個の細胞からできているといわれます。それぞれの細胞は核をふくみ、核の中には染色体と呼ばれるものがあります。その染色体を顕微鏡でよくのぞくと、二本で一組の染色体にらせんを描き、一列にきちんとした順序で並んでいるものがあります。それが遺伝子(DNA)です。
遺伝子の研究が進むにつれ、心筋梗塞や糖尿病、高血圧症、認知症、肥満など、さまざまな疾病に特有の遺伝子タイプがあることがわかってきました。
この遺伝子をよく調べて体質を分析してアドヴァイスをするのが、遺伝子検査ビジネスです。なぜビジネスかといいますと、医療機関を通さずに、薬局やインターネットで気軽に検査キットを購入することができるからです。現在はメタボ対策、ダイエット対策、美肌対策などと称して、簡単な検査キットが販売されています。口の中の粘膜細胞を綿棒でこそいで送付するだけで、たとえば自分がどのようなタイプの肥満症でどのような食生活をおくればよいのかなどの報告書が遺伝子を検査する会社から送られてくるそうです。
本当にその結果をうのみにしても大丈夫なのでしょうか?
病気の要因について考えてみますと、明らかな遺伝病をのぞいて、遺伝的なものと環境的なものの大きく二つがあります。たとえば遺伝子のタイプが一致する一卵性双生児でも、食事や仕事などの生活環境がことなれば、発症する病気もことなるということです。
遺伝子検査はまだはじまったばかりです。ある遺伝子タイプがどのような食生活をしていたらどのような病気になる、というデータ、つまり遺伝的なものと環境的なものを合わせたものこそ信用に足る情報だと思います。臨床例の少ない情報も、“遺伝子”という先端科学の用語のおかげで信憑性が増してしまいます。この件に関しまして日本医学会は「十分に正確な説明や医学的根拠のない遺伝子ビジネスに対し、消費者庁などによる監視体制の確立や法整備などを求める」提言を行なっています。
遺伝子について考えさせられたニュースがもうひとつあります。2013年の5月、ハリウッド女優のアンジェリーナジョリーが乳房の切除手術を受けたというものです。母を56歳の若さで卵巣がんにより亡くしている彼女は、遺伝子検査を行いました。その結果、卵巣がんや乳がんにかかりやすいといわれる遺伝子の異常が見つかりました。この遺伝子に変異のみられる女性が生涯に乳がんにかかる確率は、アメリカのがん専門機関によると4割~8割。乳房を予防切除した場合には1割まで下がるといわれています。彼女の場合、将来的に乳がんになる可能性が8割以上、卵巣がんは5割という診断を受けました。そこで彼女は、がんの発症を防ぐために両乳房を切除するという選択をしました。38歳の決断です。
母の病苦を目の当たりにした彼女の決断を否定するつもりは毛頭ありません。この件に関しては、個人の意思が尊重されるべきものと思います。しかしこのような手術に代表される遺伝子診断がこれから先の「予防医学」になるのでしょうか。もしそのようになるとすれば身の凍る思いがします。先進医学は疑わしきは取り除き、危ない橋は決して渡ろうとしません。ちなみに両乳房を切除した彼女に残されたがんにかかる可能性はけっしてゼロにはなりません。
江戸時代の養生家、貝原益軒は「養生の道は多言の必要がない。ただ飲食を少なくし、病気を助長するものを食べず、色欲をつつしみ、精気を惜しみ、怒・哀・憂・思を過ごさぬようにする。心を平静にして気をやわらげ、口数を少なくし、無用のことをはぶき、風・寒・暑・湿の外邪を防いで、時どきからだを動かし、歩行し、寝るときでないのに寝たりしないで、食気の循環をよくする」と述べています。益軒は食生活、気の持ちよう、季節の変わり目に注意すること、適度な運動などを病を防ぐ方法ととらえていました。これこそが予防医学の真骨頂です。あまりにも速く進む先端医学にはくれぐれもご注意ください。
第51号 花粉症って何?(2017年3月)
3月に入ると花粉症の話題がいやでも耳に入ってきます。季節が変わり、気温が高くなると、花粉はパートナーを求め、空をただよって飛んでいきます。空気中にただよっている以上、それをまったく防ぎきることはできません。しかし花粉を吸いこんでも花粉症になる人とならない人がいます。いったいどうしてでしょう。花粉症になりやすい人の免疫のはたらき、および現代医学と漢方との治療法の違いについてお話しいたします。
人にはからだに異物が侵入したときに追い払うシステムがそなわっています。それを広い意味で“免疫”といいます。もちろん花粉は異物です。花粉のような異物がからだに入ると、免疫のはたらきにより、それに対する武器のようなものがつくられます。それを“抗体”と呼びます。そしてつぎに入ってきた花粉とひっつき、戦います。それがからだに都合よくはたらくとき、狭い意味で“免疫”といいます。ところがからだに都合が悪く、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの症状をともなうとき、アレルギー=花粉症といいます。つまりアレルギーも広い意味の免疫に含まれます。人が花粉症になるのは、ある意味自然の成り行き、免疫のはたらきが行き過ぎてしまった結果といえるのです。
花粉症のときに、からだの鼻や目の粘膜では何が起こっているのでしょうか。花粉症は行き過ぎた免疫といいました。しかし花粉に侵入されたらすぐに症状が現れるわけではありません。準備段階があります。まず鼻や目の粘膜に花粉がひっつくと、その成分がからだの粘液に溶けだします。その溶けたものが、マクロファージという免疫細胞にとりこまれてはじめて異物と認められます。ここから免疫が作動をはじめます。この情報が、やはり免疫システムのひとつであるリンパ球に伝えられて、異物に対抗する抗体がつくりだされます。これが「Ige(アイジーイー)抗体」と呼ばれるものです。この抗体が、鼻や目の細胞につぎからつぎへ結びつきます。その抗体の量がある一定の域を越えたとき、免疫反応の準備が調います。この状況に花粉が入りこんでくると、花粉とIge抗体との戦いが始まります。その過程で細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質がつぎつぎにはきだされます。それが鼻や目の神経を刺激したり、血管の壁の水分の出入りを多くします。そのためにくしゃみ、鼻水、鼻や目のむずがゆさ、鼻の粘膜のむくみによる鼻づまりなどの症状を引き起こします。
花粉症になる人とならない人の差、花粉症になる人というのは、Ige抗体をつくり過ぎてしまい、ヒスタミンに対して過敏に反応するようです。花粉症にならない人は、適度な量のIge抗体をつくり、ヒスタミンに対してあまり過敏に反応しません。両者にはこのように異物に対する反応に大きな違いがあります。なお、現代医学では花粉症に対して、ヒスタミンなどの化学伝達物質の放出を阻止する抗アレルギー剤とヒスタミンのはたらきを抑える抗ヒスタミン剤が用いられます。いずれの薬も眠気、だるさ、胃腸障害などの副作用をともないます。またステロイド剤のような強力な炎症を鎮める薬により、さまざまな症状に悩まされる場合もあるようです。
さて漢方では花粉症を、くしゃみ、鼻水や目ヤニなどの排泄物の状態と、それにともなう全身の症状から判断します。たとえば鼻水が透明でさらさらしており、冷たい空気に触れるとくしゃみや咳が出やすい、いつも手足が冷たく、寒がりで厚着をしているようなとき、“寒証(かんしょう)”と呼び、からだを温める薬をお出しします。また黄色い鼻水、粘る目ヤニ、鼻・目・耳などのかゆみが強い、目が赤く充血している、手足がほてり、暑がりのとき、“熱証(ねつしょう)”と呼び、からだの熱を冷ます薬をお出しします。あるいは疲れ、だるさ、倦怠感などが著しく、気力が失せているようなとき、“気虚証(ききょしょう)”と呼び、気力の低下を補う薬をお出しします。つまり、花粉症に対して一律ではなく、それぞれの方の体質に合ったものをお出ししています。もちろんこれらのタイプがいくつか重なることもあります。そのときには、それに合わせてふさわしい薬をお出しします。
すでにお気づきかもしれませんが、漢方ではアレルギー、ヒスタミンといった現代医学の考え方は用いません。「からだのかたよりをなくすこと」を最大の治療目標とします。具体的には、冷え症であればからだを温め、暑がりの方はその熱を冷まし、気力が不足していればそれを補うお薬をお出しして症状を改善させます。花粉症に関しては、症状を押さえこむのではなく、アレルギー反応を弱めて、からだに都合よくはたらく免疫を作動させます。対症療法ではなく体質改善を目指します。抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤で、どうしても眠気が強く出て困っている方が多いようですが、漢方薬ではそのような心配はありません。いろいろな薬をためして効果がないような方にもおためしになっていただく価値は十分にあります。
第50号~輭酥(なんそ)の法(2017年2月)
江戸時代に白隠(はくいん)というお坊さまがいらっしゃいました。静岡県は沼津市の原で生まれ、その当時は落ちぶれていた臨済宗を復興するなどたいそう立派な方でした。
「駿河には過ぎたるものが二つあり、富士のお山に原の白隠」などと富士山と並び称されていました。
今回のコラムでは、そんな白隠さまが世に広めた健康法についてご紹介してまいります。その名を「輭酥(なんそ)の法」といいます。禅を行うと同じ姿勢でじっとしているため、いわゆる「禅病」にかかる人が出てきます。頭がのぼせる、手足や腰が凍りつくように冷える、耳鳴り、消化不良、精神疲労などのことです。今回ご紹介する健康法は、このような病の治療にたいへんな効果を発揮しました。輭酥(なんそ)というのは、牛乳が凝固したもの、その軟らかく澄んだ上澄み液のことです。バターとかチーズのようなものと思ってください。
健康法と言っても身体を動かすわけではありません。じっと座って、想像、イメージで進行します。しっかり集中することができれば、すばらしい健康法となります。その本体が何であれ、病気が治るという身体のメカニズムには、こころという観念的な世界が結びついているからです。「信じ」、そして「続ける」ことで身体は変化します。最初は5分、10分くらいからはじめます。慣れていくにしたがい、徐々に時間をのばして30分くらいかけます。
まずは輭酥(なんそ)、このバターのようなものを大きめの卵くらいに丸く固めたものをイメージしてください。とてもいい香りがします。それを頭の上に乗っけたところから、想像力をつかった健康法は始まります。心の動きにもとづいて、バターのようなものを体温によってしだいにとかし、頭から身体の至るところに浸透させ、流れ落ちるように観念することにより、内臓の痛み、しこり、違和感などを下降させます。バターのようなものは決して速く流れません。ゆっくり浸透します。身体をまんべんなくめぐり流れ、両脚を温かに潤して足の裏の土ふまずにいたって止まります。これがすべて、心の動き、想像によりとり行われます。身体はじっとしたままです。
「輭酥の法」
背骨をまっすぐにして、椅子に腰かけて目をつむり心を落ち着かせます。
呼吸はゆったりと、腹式呼吸で、吐く息を長めにします。
頭のちょうどてっぺんに卵のような形をしたものがのっかっています。
わりとずっしりとして重量感があります。
中身は、とろとろのバターのようにねっとりしてとてもいい香りがします。
それがあなたの体温で徐々に温まり、とけて流れ出します。
ゆっくりと頭全体を潤して、しんしんと下っていきます。
両肩、両腕、両乳、胸の間、さらに内臓の肺、肝臓、食道、胃腸、背骨、尾骨までも包みこむように潤します。
この際、身体の中に痛むところ、違和感のあるところ、しこりのあるところ、気になっているところなどがある方は、そこを何べんもねっとりとしたいい香りのものが潤しているようにイメージします。
やがてそれは骨盤の中の臓器、生殖器、足をゆっくり下り、足の裏へとたどり着きます。手足は温かく、身体も台風一過の青空のようにすっきりしています。
白隠さまにこの健康法をさずけたのが白幽仙人です。そのあと「わたしは今あなたに一生用いても用いきれぬ秘伝についてお話した。これ以上もはやお教えすることはない」と語ったそうです。仙人がそう語ったのです。この事実はとても重大です。この瞑想法は体力がない虚弱な方に大きな効果をもたらします。白隠さまは、この健康法でご自身の肺病を克服しました。『遠羅天(おらて)釜(がま)』『夜船(やせん)閑話(かんな)』などの禅宗の理論で書いた多くの著作を残しています。
第49号~お風呂は注意して(2017年1月)
先日新聞で入浴関連死について書かれた記事をみかけました。一年間でおよそ一万数千人の方々がお亡くなりになっているようです。原因はお風呂に入ってから出るまでの間におこる血圧の急変動にあります。柔軟性を失い、古くなった血管は、その変動にとても対応できません。具体的には血管が破れる、あるいは血管にゴミ(血栓)が詰まるなどがおこります。このようなことが脳や心臓でおこればまちがいなく命の危険にさらされます。
お風呂に入る場合には、まず脱衣所で裸になります。そのときに冬であれば寒さによる緊張で血管が細くなり血圧が上がります。もし風呂が熱すぎる温度であれば、お湯に入るとさらにからだに力が入り血圧が上昇します。しばらくお湯につかっているとほっとリラックスして血圧が低下します。気持ちがいいひとときです。でも気持ちがいいのはここまで。お湯からあがるとまた寒い脱衣所での着替えが待っています。もちろんまた寒さによる血管の収縮で血圧が上がります。これでは血圧のジェットコースターのようなものです。上がったり下がったりまた上がったりで血管がその変化についていけません。とくに血圧が低いところから上昇するタイミングが要注意です。高齢者の血管は、かたかったり、その内側もささくれ立ったりしています。お湯につかり血管が広がっているところに、脱衣所の寒さにより急に血管が縮まる。そこに大量の血液がスピードを上げて流れ込むと、血管が破れる、あるいは内側から、かすが流れ出し、詰まるなどの危険が高まります。
あたりまえのように入浴していますが、血管の収縮と拡張の観点からみると冬場にはとても大変な行為です。脱衣所の温度はできるだけ、高く設定して入浴による温度変化を最小限にしたいものです。集合住宅などは、比較的温かい環境にありますが、一戸建ての家はすきま風が入り込みやすいのでヒーターなどの暖房器具を設置することをおすすめします。一番危険なのが飲酒の後の入浴です。このような習慣は早めにやめておいた方が身のためです。また湯あがりに冷えた風に当たらないでください。脳卒中や心筋梗塞の危険が高まります。
では、冬におすすめの入浴法です。
1.脱衣所や浴室内は前もって温めておく。できれば一番風呂は避ける。
2.入浴時間は短めにする。お湯の温度はぬるめが無難。
3.お酒を飲んだ後などのように、のどが渇いた状態での入浴はひかえる。
* もし可能であれば…冬になったらお風呂は温かい入浴施設で昼間入る。
これまで、お風呂の嫌なところばかりお話ししてきましたが、お風呂は血液循環を改善するとてもすぐれたものだと思っています。よく眠れるようになりますし、気分転換もでき、なにしろ気持ちがいいものです。個人的には平均寿命が世界的にトップレベルなのはお風呂がひとつの要因ではないかと思っています。ただし、冬には注意する必要がある、というお話をさせていただきました。
第48号~かぜを防ごう(2016年12月)
秋から冬になるとすぐにカゼを引いてしまう方がいらっしゃるので対策をねってみましょう。
なるほどたしかに、わたしたちのからだの中には、たえず細菌やウイルスなどが侵入してきます。冬は空気が乾燥しているのでウイルスなどの勢いも増しています。しかし、そのたびごとに病気になっているわけではありません。からだには、侵入してきた悪いものを退治する機能がそなわっているからです。それを免疫といいます。東洋医学ではこれと同じようなはたらきをそなえる機能を「衛気(えき)」と呼びます。衛気は汗とともにからだ全体を温め、つつむようにガードしています。ここで使われている「衛」という字は、護衛、守衛、防衛など、周囲を巡回してまもるという意味をもちます。
東洋医学の古典には、秋に活動しすぎてたくさん汗をかいてしまうと冬に病気になりやすい、というようなことが書かれています。人間というものは汗をかくとからだが冷えるしくみになっています。夏であればそれは必要なことです。しかし、秋から冬にかけてたくさんの汗をかくと、外の気温の影響から、からだが冷えを受け入れてしまい簡単にカゼを引きます。古典の記載は、汗をかくこと自体は悪いことではないが、季節によりその量は調節すべき、という忠告です。なぜ汗のかき過ぎが時にからだに良くないかというと、汗とともにからだをまもる「衛気」が大量に出ていくと考えるからです。ふだん衛気は、からだを取り囲んで悪いものが入ってこないようにガードしてくれています。たとえ悪いものが入ったとしてもそれと闘い、追い払います。そのような衛気が、一度に汗とともに大量に出て行くと、国境警備が仕事をさぼるようなもので、からだにスキができます。そのスキにつけこんで、細菌やウイルスが侵入するために、カゼを引いてしまうわけです。
とかく、汗をかくことがお肌を美しく保ち、無条件にからだに良いことのように思われているふしがあります。その証拠に、美容のため、という理由で多くの女性が岩盤浴やサウナなどを利用します。しかしサウナの発祥は北欧であり、本来は雪や寒さなどにより屋外で運動して汗をかくことができない人たちの新陳代謝をうながすものです。わたしたちのように四季のはっきりした国に住むものは、からだを動かして汗をかくことに重きを置いたほうがよさそうです(サウナ好きの方、すみません)。季節を考えずにむやみにからだをまもる汗を排泄するのは健康をそこなうことにつながります。もともと暑がりで体力がある人であればそれもけっこうです。飲食物からふたたび汗や衛気をつくりだすことが容易だからです。しかし代謝の悪い、むくみやすい、冷え性の女性がダイエット目的で多量の汗をかいていくと、身体から衛気がどんどん抜けてしまい、冷えが加速します。このような症例は、私の臨床において、とても多くみられます。東洋医学では、汗はからだを潤す単なる水分ではなく、からだをガードして悪いものから防ぐ、エネルギーなのです!そのようなエネルギーをつくりだすには、内臓を使ったそれなりの労力が要ります。ざっくばらんに言ってしまうと、汗を作るのはからだにとってかったるいことなのです。スポーツ飲料や麦茶などを飲めばすぐに作られるものではありません。秋から冬にかけてなど、外気が冷たいころは、多量の汗をかくことを慎みたいものです。
さて、ここからはカゼの防ぎ方です。カゼを引きやすい人は、乾布摩擦を始めましょう。皮膚を摩擦することで、衛気のはたらきは強化され、カゼを引きづらい体質に変わります。
また背中にぞくぞくするような寒気を感じた時には、背中と首の付け根にある大きな背骨を中心としたところにドライヤーの温かい風をしばらく当てておきましょう。5分ほど温めておくと、カゼの引きはじめであれば回復することをしばしば経験します。東洋医学では、風邪が背中と首の付け根にある大きな背骨の辺りから入ってくると考えます。カゼの引きはじめにその辺りをじっくり温めて、じわっと汗が出ると寒気が抜けます。背中がぞくぞくするときにその辺りの皮脂を石鹸でしっかり洗ってしまうと垢とともに衛気も失うために、カゼが入り込みやすくなるので注意して下さい。
さらに、膝から下を冷やさないように心がけます。とくに靴下は大切なアイテムです。絹でできた五本指のものを履き、さらにその上に絹の靴下を重ね履きします。またレッグウォーマーなどを上手に使い、膝下がスースーしないように注意しましょう。しそ、しょうが、ねぎは発汗作用があり、カゼ引きそうかなあ、というようなときに食べると予防効果があります。れんこん、ぎんなん、やまいもなどもふだんから食べていると衛気を強くするのでカゼの予防にすぐれます。