第22号 ~ 経絡(2007年8月)
東洋医学に興味のある方は、経絡(けいらく)という言葉を聞いたことがあると思います。
私どもが経絡についてお話するとき、ついつい専門的になりがちです。
そんなときは、ふと架空の絵空事を話している気にもなります。
なぜなら、経絡が血管や神経とは異なり、からだを開いたとき、明らさまに目にみえるものではないからです。
なかには実際に目にみえないとどうしても納得できない、という方もいらっしゃいます。
そんな方々もふくめて、今回はみなさんに経絡のお話をしていきます。
むかしむかし、何千年も前、中国に不思議なことに気づく人がいました。
年のころは、30前後の女性です。
その日も家族のために夕食を用意していました。
今とは違い囲炉裏に薪をくべていました。
そんなとき、薪が爆ぜて、女性は手先に火傷をしてしまいました。
ここまではよくある話です。ところがこの女性、実はその日の朝から歯痛に悩まされていたのです。
しかしこの火傷のあと、すっかり歯の痛みを忘れてしまったのです。
次の日、近所の井戸端会議で女たちにこの話をしたところ、似たような経験をした女が現れたのです。
奇偶ですね。
急いでこの話を村の長老に伝えたところ、
「実はわしも前からこの歯が痛くてたまらんのじゃ、お前の話がもし本当ならばわしの歯の痛みを治してくれ」
と言われました。
すぐにこの女性は焼いた小石を小枝ではさんで、長老の手先、自分が火傷したところと同じ場所に軽く火傷を負わせました。
次の日の朝、その女性が起きて水を汲みに出かけようと戸を開けると、そこには山海珍味がやまのように置いてありました。
長老からの感謝のしるしでした。
ある男性はお腹が痛くてたまらない。
さすっても温めても、いっこうによくならない。
しかし、そんなときにも狩に出かけなければならないのが、男というものです。夢中になって獣を追いかけまわして、やぶに足を踏み入れ一頭のきつねを仕留めました。
帰り際、自分の足のすねがひどく傷ついていること、同時にお腹の痛みがすっかりよくなっていることにも気づきました。
みなさん、おわかりになりますでしょうか?
経絡とはこのような「経験の積み重ね」なのです。
女性は、自分の経験から手先と歯が何か目に見えないものでつながっているのではないかと思うようになりました。
男性はお腹とすねに深い関わりがあるのではないかと思うようになりました。
このように中国には、身近に起こる、からだの変化にとても敏感な人たちがたくさんいました。
そして、その経験をたくさん持ち寄って、からだに独特のルート・マップのようなものを創りあげました。
それが経絡です。
残念ながら、現在の科学ではそのすべてを解明することはできません。
しかし、鍼灸治療をおこなう上でとても大切で役に立つものなのです。
念のため、むかし話はフィクションです。