第35号 ~ 更年期障害(2008年9月)
人間のからだのはたらきには、自分の意志でどうにかなること、どうにもならないことがあります。
自分の意志でどうにかなることは、歩く、走る、話すなどの行動にみられます。
一方、自分の意志でどうにもならないことは、たとえば心臓を動かす、胃で食べ物を消化して便をつくる、運動すると汗がでるなどの日常にかくれています。
自分の意志ではどうにもならないことはホルモン系と自律神経系の二系統によりつかさどられています。
更年期障害とは、この自分の意志ではどうにもならないからだのはたらきが低下してさまざまな症状をあらわす病のことをいいます。
この病、年のころは50才前後、とくに女性に多くおこります。
女性は、40代の半ばを過ぎると卵巣のはたらきがおとろえ、ホルモンの分泌量が低下します。
ホルモンとはわずかな量でからだをコントロールする、不思議な物質です。
その分泌が減るとからだのバランスがくずれるのは、むしろ当然の成り行きといえます。
また人間のホルモン中枢と自律神経の中枢は間脳という同じ部屋におさまっています。
したがって性ホルモンの分泌低下は、自律神経との拮抗した関係、つまりバランスをくずし自律神経の失調を誘うことにもなります。
その結果、閉経期には疲労感、頭重、肩こり、のぼせ、冷え、不眠、不安、発汗などの自律神経の不調により生ずる症状が現れます。
さて漢方で更年期をどのように考えるか。
漢方では更年期を老化の入口ととらえます。
内臓でいうと腎臓のはたらきのおとろえをもって老化とします。
腎臓のことを漢方では「腎」と呼び、腎臓よりもう少し広い意味をもたせています。
腎には父母より受けついだ生命力がそなわっており、30才前後のピークをさかいに徐々に目減りしていきます。
その生命力が一定のレベルに達しなくなると、子どもを生むことができなくなるなど老化現症を呈します。
腎には骨、脳、歯、耳、髪、足腰などを丈夫に保つはたらきがあります。
したがって、老化とともに腎のはたらきがおとろえると、骨密度が低くなる、物忘れがはげしくなる、歯が抜ける、歯がぐらぐらする、耳が遠くなる、髪が抜けやすい、白髪になる、腰が痛む、足腰に力が入らないなどのさまざまな不都合が生じます。
たとえいかなる医術、もちろん漢方の力をもってしても人間の老化を完全にふせぐことはできません。
ただし急激な老化をふせぐ、あるいは通常よりも早くにおこる更年期症状を引き延ばすという点において、漢方はとてもすぐれた医学であるといえます。
このようなケースに鍼灸治療でよく用いられるツボが「三陰交(さんいんこう)」です。
足の内くるぶしから骨に沿って7~8cmのぼったところにあります。
とくに女性によく効くツボです。
30代後半の女性はお灸をすえてみましょう。
安定した更年期を向かえることに一役買ってくれるはずです。