第38号 ~ 乗り物酔い(2008年12月)
内耳(ないじ)という器官は、耳の奥深くにあります。
そして気づかぬうちにとても大切なはたらきをしてくれています。
そのはたらきは、歩いたり、走ったり、動き回ったりといろいろな行動をするときに発揮されます。
つまり、まわりの景色における自分の位置関係をはっきりと認識すること、とされています。
ひとは自分の位置関係、つまりバランス感覚を失うと、気分が悪くなるなどからだに変調をきたします。
乗り物酔いとは、乗り物に乗ることで、その揺れやまわりの景色の変化のために、内耳のバランス感覚を維持するはたらきが失われておこると考えられています。
酔い止めの薬を使うのは奥の手にとっておきましょう。
薬なしで酔いを止める方法の一つは慣れさせてあげることです。
たとえば遠洋漁業ではじめて船に乗る若者は、気分が悪くひと月ほど食事がのどを通らないそうです。
でも「慣れ」とは、すごいものです。
つらい時期を過ぎると、へっちゃらな顔をしてマンガを読みながらご飯を食べているそうです。
もうひとつの方法は、安静です。
バスや電車なら前の席、船なら中央の揺れの少ない所に移動して、できれば寝そべるスタイルをとると良いとされています。
また軽い症状であれば、乗り物から降りることですぐに解決します。
もちろん発症には、心理的な要因も大きくかかわります。
自分で暗示をかけてしまい、どうせまた酔ってしまうだろう、と想像することも良くないことだといわれています。
では漢方で、乗り物酔いしづらい体質づくりについてどのように考えるのかお話します。
一般にバランス感覚のくずれは、内耳の問題とされていますが、本当にそれだけが原因でしょうか。
そこには、内臓に由来する、乗り物酔いを起こしやすい体質というものがあります。
ふつうお腹がぺこぺこのときや、お腹がいっぱいのときに乗り物酔いしやすいといわれています。
また乗り物酔いすると、気分が悪い、吐くといった胃の症状があらわれています。
このようにまずは、胃のはたらきを正常に保つことがポイントになります。
また、自己暗示をかけることで乗物に酔いやすくなってしまうように、精神状態を安定させておくこと、つまりリラックスした状態でいることもポイントになります。
漢方では、ひとの精神状態を安定させる代表的な内臓を肝臓とみなしています。
つまり、肝臓のはたらきを良くしておくことも大事なポイントになるわけです。
ここでみなさんに乗り物酔いを防ぐ、とっておきのツボをご紹介します。
内関(ないかん)というツボです。
手のひら側、手首から肘にむかって3~4cmのぼったところにあります。
このツボには、胃をなごませ、気の流れをスムーズにするはたらきがあります。
乗り物に乗る前やふだんからお灸をすえていると、胃のはたらきを正常に保ち、緊張しづらい体質に変えてくれます。